齋藤 隆 × 下川 勝
─黒に寄り添う─
2023.11.8(Wed)-2023.11.19(Sun)
11:00~18:00(最終日は16:00 まで)
月・火曜日休廊
軽食とソフトドリンクもお楽しみいただけます。
※画像クリックでPDFが開きます
この度、齋藤隆と下川勝が二人展を開催する。絵画と立体、ジャンルも作風も異なる
二人の共通点は何処にあるのか。それは消え去りつつも残る「何か」の表現だと思う。
下川は河原に散乱する棄てられたものを収集する。使い捨てのライターやペットボトル
のキャップは使用後分別され、処理されてこの世から「姿」を消す。しかし、不法投棄
されたものはいつまでもその場にゴミとして留まる。彼はそれを回収し、河原に自生す
るヨシを燃やした「火」により作品化する。黒い「物体」は半永久的に留まるものとし
て息づく。
齋藤は朽ち木や塩鮭の頭、自身の手が、時間の流れに沿って朽ちていく、あるいは老
いていくありさまを描き留める。特に手を描いたものは、すでに消えてしまった筋や皺
までもいとおしむように描き込み、黒い線で埋め尽くされている。筋や皺は重ね描きさ
れて、ところどころ渦をなしている。
渦は相反するふたつの力により発生する。「生」とは消滅と生成の繰り返しである。生
成が消滅より上回るため生が保たれる。そこには絶えず渦が発生するのである。その一
方で「指先」は白化し透けている。ここには渦が発生していない。生成より消滅が勝り、
静止している。「死」の領域に入っているのだ。それは「白」として表現されている。消
え去りつつも残る「何か」は「白=死」として現れる。「死」は「白」として残るのである。
下川にあっては白化したヨシの灰だろう。「黒」の傍らには絶えず「白」が寄り添っている。
江尻 潔 ( 足利市立美術館次長・学芸員 )
齋藤 隆 Takashi Saito
1943 年東京生まれ。独学で絵を描き始め、63 年より読売アンデパンダン展
に出品。
以後個展を主に発表を続け、ほか山種美術館賞展、从展、明日への具
象展、横の会展等にも出品し、モノクロームによる異形の人間像を精力的に発
表。
また「日本画と現代 - 今を生き、そして描く」展(福島県立美術館 1988)、「日
本画・現代の視角 - その模索と実験」展(新潟市美術館 1990)、「異形の
Figure- 東北の3人展」(宮城県美術館 1993)、「日本画 - 純粋と越境」展(練
馬区立美術館 1998)等に出品。2004 年リアス・アーク美術館(宮城)、09
年喜多方市美術館、13 年福島県立美術館で齋藤隆展が開催された。14 年第 7
回円空大賞展で円空賞受賞。
下川 勝 Masaru Shimokawa
1950 年大分県中津市生まれ。同県離島の深島で生後 5 歳まで過ごす。
島では海の生物、漁具、廃舟片や木などの漂流物を遊具にして砂浜で一人遊びの日々。
55 年福岡県の筑豊に移り、田川市や糸田市に住む。ここでは旧炭鉱の廃墟、
ボタ山、炭鉱処理水の溜池などを遊び場とする。こうした遊び・体験は今日の
創作活動に繋がっていく。高校三年生で初個展「18 歳の証言」(谷弥画廊・福岡)
を開催。高校卒業後上京、工藤哲己、前田常作、草間彌生と親交する。74 年
館林に転居。05 年より自宅近隣の河川、それに続く海岸線を歩行して拾得し
た石や瓶、缶、ペットボトルキャップなどを素材に平面や立体の作品を制作。
地元や国内外で個展を開催する。