2022.2.23(Wed)-2022.3.6(Sun)
11:00~18:00(最終日は16:00 まで)
月・火曜休廊(月・火が祝日の場合は営業し、翌日休)
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石井壬子夫は晩年の18年間、毎日「自己像」を描き続けた。6,000枚余りの作品群は、人に見せるために描いたものではない。
日記のように自分自身に対して描いている。石井は「自己をみつめねば不安でいられない気持ち」になるという。
「自己をみつめる」とは自身を客観視することである。距離のないところに客観はあり得ない。ではどうやって距離を生じさせるのか。
彼にとってそれは描くことであった。同時に不安を解消する手立てでもあった。
この不安はいったい何処から来るのか。これは石井の戦争体験に源がある。彼は戦時中、教育者として教え子を戦地に見送った。
直接、間接を問わず彼らを死へと導いた自責の念から逃れるわけにはいかない。石井の「不安」とは、そのことを忘却してしまうことにある。
ここには、仕方なかったとは決して言うまいという思念がある。その延長線上に「ヒロシマ」連作がある。
原爆で死んだ人々は仕方なく死んだのだろうか。決してそんなことはない。戦争により、人は加害者にも被害者にもなる。
それは、仕方ないでは済まされない。
石井は、忘れないために自身に「痛み」を与える。それは、描くことであった。
「一日描かざれば、一日喰らわず」と自身に強く課した。自己像の峻烈な「視線」とその現れである清冽な「線」は、彼の「痛み」そのものなのである。
江尻 潔(足利市立美術館次長)