artspace and cafe

2022.5.14(Sat)-2022.6.12(Sun)

11:00~18:00(最終日は16:00 まで)

flyer_omote

※画像クリックでPDFが開きます

鮎川の光跡、武蔵野の残影


 吉増剛造にとって、故郷・武蔵野の地は創作の源泉であり続けた。その関わりは、同じく武蔵野に生まれ育った彫刻家・若林奮との30年におよぶ交流を経て、いっそう深められたといえる。
 二人の関係の発端である、若林の挿画による吉増の第三詩集『頭脳の塔』(青地社)が 1971 年に刊行されてから、50年あまりの年月が経つ。 吉増は、『草書で書かれた、川』(1977年、思潮社)や『オシリス、石ノ神』(1984年、思潮社)など、武蔵野の面影を宿す詩集を刊行した後、 時を経て1999年~2000年、季刊『武蔵野美術』(武蔵野美術大学出版部)の誌上で、若林のドローイングに自身の言葉や写真を交差させるような連載を行った。 さらに1990年代以降、吉増は、若林が自作したハンマーとたがねで文字や言葉を銅販に打刻する作品の制作を続けている。
 詩作から飛翔し、写真、造形、映像へと大きな広がり見せる吉増の創作であるが、若林奮との長年の関わりを振り返ると、 時代ごとの節目で若林の影響があったことに気付かされる。そしてその奥底には、吉増の意識の内を照らす武蔵野の光を、残影として見出すことができる。
 吉増は、大災害に見舞われた牡鹿半島の漁村・鮎川の海に面したホテルニューさか井の一室で、2019年から断続的に滞在しつつ、 この地を照らす光を記述し続けている。その窓から見える海の景色に、武蔵野の面影、そして若林奮の残像を重ね合わせる時、 鮎川の地がまとう光は、60年にわたる詩作の時間を経た吉増が未踏の彼方へ回帰するための、新たなビジョンになり得るだろう。

篠原誠司(足利市立美術館学芸員)


吉増剛造 Gozo Yoshimasu
1939 年東京生まれ。慶應義塾大学国文科卒業。在学中から詩作を始め、
1964年の第一詩集『出発』以来、先鋭的な現代詩人として国内外で活躍。同時に詩の朗読パフォーマンスを行い、80 年代からは銅板に言葉を刻んだオブジェや写真作品を発表。
2016 年には個展「声ノマ全身詩人、吉増剛造展」を東京国立近代美術館で開催。
2017~18 年には、個展「涯テノ詩聲(ハテノウタゴエ)」(2018 年)を足利市立美術館、沖縄県立博物館・美術館、渋谷区立松濤美術館で開催。
2018~19 年には、福島県内の3館、福島県立博物館、はじまりの美術館、埴谷・島尾記念館文学資料で吉増剛造展を開催。
2019 年、Reborn-Art Festival( 石巻市)に参加。
2020 年より、「葉書 ciné」を YouTube にて配信。
2021 年『詩とは何か』(講談社現代新書)『Voix』(思潮社)出版。

■ライブパフォーマンス■
出演:吉増剛造、マリリア
5月14日(土)15:00~
定員 20 名(予約制)/2,000 円(ワンドリンク付)