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宮迫千鶴作品展 森の物語

2020.8.26(Wed)-2020.9.13(Sun)

11:00~18:00(最終日は16:00 まで)
月・火曜日休廊
軽食とソフトドリンクもお楽しみいただけます。

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宮迫千鶴は今日まで、たくさんの文章を書いている。そのため世間では常に明快な意識を持った「言葉人間」と思われているらしい。しかし、一緒に暮らしている中で観察していると、彼女は表現するために言葉を探し求め、 ときに悩んでいる「イメージ人間」であることがわかる。宮迫はよく、風にそよぐ樹木や青空に浮かぶ雲や静かな星空をいつまでも眺めている。このようなとき彼女は何か、言葉以前のもの、例えば音楽のようなイメージを感じて佇んでいるのだ。かつてサルトルは「イメージの構造は、我々の内部において、非合理的なものとしてとどまっている」と述べているが、その非合理なカオスに言葉を与えるのが詩人であり、その感情を形象化することが画家の仕事である。
宮迫はアトリエでよくブラジルの音楽を聴いている。そんなときすでに制作の助走が始まっている。ラテンのリズムは彼女の心を揺さぶり、感情のカオスは、絵画に必要なフォルムを形成する流れの中で、次々とあふれてくる。
彼女はコラージュやオブジェ以外に、近年畑や植物をモチーフにした水彩画をさかんに描いている。宮迫の水彩は、異なった形象を異化結合させて、第三のビジョンをつくり出すコラージュと違って、一場面をみずみずしく描いているものである。とはいえ、コラージュも水彩も表現している世界は同じで、自然への賛歌であることに変わりはない。むろん東京で暮らしていたころは、現在とは違う都市の詩をブルージーに描いていたが、一九八八年に伊豆高原に転居してから環境の変化に影響されて、モチーフはすっかり変わり、制作も驚くほど多作になった。こうした環境の変化と画風の変容は、私の身の上にも訪れて、画家である私たち夫婦は生活の場だけでなく、絵画にとっても豊かな実りを、もたらせてくれるこの土地に、朝夕感謝しているのである。

谷川晃一(画家)
「絵のある生活コラージュ・ブック」(NHK 出版・2002年)より



宮迫千鶴 Chizuru Miyasako

画家・評論家・エッセイスト。1947年広島生まれ。広島県立女子大学文学部卒業。20代から独学で絵画制作をはじめ、美術・写真評論、女性論や家族論、女性の視点からの文化論を展開。1988年、伊豆高原に転居。自然や暮らし、心・体・霊性の不思議に注目し、多くのエッセイを発表している。絵画は、自然をテーマにした視覚の喜びを喚起する明るい色調の豊かな作品で海外でも高く評価されている。1992年、画文集『緑の午後』(東京書籍)がドイツのライプチヒで開かれた「世界でもっとも美しい本展」で銀賞に。1999年『海と森の言葉』(岩波書店)のなかのエッセイが三省堂、明治書院の高校現代国語の教科書に採用される。
2008年6月19日、リンパ腫のため不帰の人となる。享年60歳。