吉増剛造展 Voix
2020.5.22(Sat)-2020.6.20(Sun)
協力:書肆吉成 コトニ社
11:00~18:00(最終日は16:00 まで)
月・火曜休廊(月・火が祝日の場合は営業し、翌日休)
軽食とソフトドリンクもお楽しみいただけます。
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「潜りゆく鯨に触れつつある。」
大震災から10年を経て、吉増剛造が自身の今を語ったことばだ。あの時からの吉増の時間は、鎮魂の傍らに、創作の深化と自己の再生があったに違いない。その道程で、2019年に宮城県石巻市で開催された「Reborn-Art Festival 2019」以降、現在も吉増が創作の場として通う、牡鹿半島の漁村、鮎川の海に面したホテルニューさか井の一室は、今と、これからの吉増の活動を支える存在になっているといえる。
私がこの部屋に吉増を訪ねた晩夏の日、その朝、眼前の浜に引き上げられた鯨から摂り出したという一片の歯が、原稿や筆記具とともに机上に置かれていた。それは、さまざまな時の中で喪われてきた者たちと吉増が重なり合う予兆を感じさせるものだった。
こうした日々の中で、吉増は一年ほど前から、「葉書 Ciné」と呼ぶ数分の映像をYouTubeで公開し続け、今や50編に達している。そこで表される時間や場所、記憶の重なりは、かつての映像作品「gozoCiné」や、さらに遡って多重露光による写真を思い起こさせるが、それらは吉増による世界への呼びかけであったのに対して、「葉書 Ciné」での語りは、吉増自身へと還る木霊でもあるように思われてならない。
「葉書 Ciné」は創作の開始から一年を経た現在、さらに深い地点へと進もうとしている。それは、吉増が触れつつある、海の深淵に溶け込んだ無数の記憶や思いに対して、私たちも手を伸ばし得る道を開くかもしれない。
篠原誠司(足利市立美術館学芸員)