2022.8.24(Wed)-2022.9.4(Sun)
11:00~18:00(最終日は16:00 まで)
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1997年8月、石井克は、テレジンのナチスドイツ強制収容所跡を訪れた。
アウシュビッツやビルケナウなどの「絶滅収容所」への中継点だった場所だ。
その後石井は二回この地を訪ねた。今回の出品作には、この体験が元になっているものも含まれている。
そのような場所に立った時、人は何を思うだろうか。
罪なくして虐殺された多くの人たち、大量殺戮に直接、間接に手を下した人たち―殺されたのも、殺したのも同じ「人間」であることに戦慄を覚える。
人は加害者にも被害者にもなる。私はどちらにもなりたくない。そのような思いに駆られたとき、石井の作品は示唆に富む。
今回の出品作に、ARBEIT MACHT FREI( 働けば自由になれる ) という文字が記されたものがある。
これはナチスによる偽りのプロパガンダであり、アウシュビッツ同様、テレジンの収容所の門にも掲げられている。
本作には、その門からおぞましい生きものめいたものが出てくる様が描かれている。頭部が肥大した多足の「それ」はかつて人だったのかもしれない。
「それ」に踏みつけられつつも、小鳥は生き、花も咲いている。
命の芽生えに、絶望における希望の光を見る思いがする。
「絶望」は殺された人々の思いに他ならないが、同時にナチスを体験してしまった今を生きる私たちの「絶望」でもある。
おぞましい「それ」は私たちの内にも生きているのだ。これをどう克服するか。
深い森の緑の中で、小さな生きものと共生することにより、良きものへと変容できるかもしれない。
だからと言って殺戮と虐殺の記憶は消えないし、消しようがない。そのどうにもならない思いを鎮める力が石井の「緑」にあると思う。
江尻 潔(足利市立美術館次長)